2023年8月7日月曜日

Nagakumo:『JUNE e.p.』(NexTone /ArtLed/ TTDS-230809)


 耳の早い音楽通の間でネオネオアコ・バンドと注目されている、Nagakumo(ナガクモ)がサードEPとなる『JUNE e.p.』を8月9日にリリースする。
 
 彼らは2021年1月に結成された大阪の4人組インディーズ・バンドで、関西を中心に活動している。ギター兼コーラスのオオニシレイジがメイン・ソングライターで、ボーカル兼ギターの紅一点コモノサヤが作詞を手掛ける曲もある。バンド誕生の経緯は、オオニシとベースのオオムラテッペイが所属していたバンドが活動休止中、元々バンド志向がありシンガー・ソングライターだったコモノをオオニシがサポートするようになり、自然に結成する方向に移行していったという。ドラムのホウダソウも大学時代にオオニシとのセッションが縁でバンドの結成に参加するようになったそうだ。これまでにリリースしたEP 『PLAN e.p.』(2021年)、『EXPO』(2022年)は、いずれもインディーズとしては異例の高セールスとなり、現在はフィジカル盤は販売を終了し、配信のみで聴くことが出来る。
 今回の『JUNE e.p.』はメンバーによるセルフ・プロディースで、エンジニア兼ミックス、マスタリングは、くるり等も手掛けた京都のmusic studio SIMPO代表の小泉大輔が担当している。
 また独創的なジャケットとパッケージのアートワークにも触れるが、若きグラフィック・デザイナーの でおね によるもので、A5サイズに6つ折りにしたという、このデザインの発想には脱帽してしまった。所有欲をかなり刺激するので、是非現物を手に取って欲しい。

『JUNE e.p.』パッケージ

 何より彼らの魅力は、嘗ての渋谷系を経由したUKのネオ・アコースティックをルーツとしながらも独自のカラーを持つオオニシのソングライティングと、荒削りながらジャンルレスなオルタナティブ感を醸し出すバンドの演奏力、そして比類なき個性を誇るコモノのボーカルだろう。筆者的にはトルネード竜巻(1998年~2009年)元相対性理論の真部脩一と西浦謙助が2017年に結成した集団行動を彷彿とさせて、プレスキットの高音質音源を一聴して気に入ってしまった。
 ここでは筆者の全曲解説をお送りするので、興味をもった読者はこのEPを直ぐに入手して聴いてみて欲しい。

 
Nagakumo “日曜前夜”(Official Music Video) 
 「日曜前夜」は6月14日に先行配信された本作冒頭を飾る曲で、コモノの作詞とオオニシの作曲による。シェイク系のリズムにエレキとアコギのハイライフ系のカッティングが絡んでいく、グルーヴィーなギターポップ・サウンドだ。ヴァースからブリッジ、サビへの転回や2コーラス目では、ボサノバへのリズム・チェンジなど構成的によく練られていて、日常の情景をポエジーに綴った独特な歌詞との相乗効果を生んでいる。


 
 Nagakumo “Bedtime Bear” (Music Video)
 続く「Bedtime Bear」もコモノとオオニシのソングライティング・コンビによる曲で、ファンキーなヴァースから一転して甘美なサビへと繋がっていく。SUS4系コードやギター・ソロのフレーズがサイケデリックなムードを醸し出してオールドロック・ファンにもお薦めできる。この曲でもコモノの表現力豊かなボーカルの存在感が際立っており、非凡な才能を強く感じさせるのだ。


 
Nagakumo “ボール” (Official Music Video) 
 7月12日に先行配信されたばかりの「ボール」は、オオニシ単独のソングライティングで、本作中最もUKロックの匂いを感じさせる曲である。いきなりヴァースからスタートし、ハードなインタールードを経てヴァースがリスタートするといった構成が効果的でドラマティックである。曲全体も4分弱の尺ながら転調するパートが多く、散文詩且つ視覚的な歌詞の世界観など完成度が高い。クリス・トーマスが手掛けていた頃のロキシー・ミュージックを彷彿とさせて筆者的にも非常に好みのサウンドである。 
 本作のリード曲に指定されている「6⽉は愛について」もオオニシ単独作で彼自身もリード・ボーカルを取っている。イントロのキュートなスキャットから本EP中最も渋谷系直系のサウンドであり、世代を超えて愛されているのが肯ける。サビではコモノがリード・ボーカルに加わり、大サビではオオニシとのデュエットになっている。現在もこのサウンドを伝承しているカジヒデキ氏にも聴いてもらいたい。 

 そしてラストの「マガジン・キラー」もオオニシ単独作で、彼のソングライティングに影響を与えたとされる、TWEEDEESの沖井礼二がCymbals(1997年~2003年)時代に残した最高傑作「Highway Star, Speed Star」(2000年8月)に通じる、得も言われぬ疾走感と甘酸っぱいメロディの融合が堪らない。ディストーションが効いたエレキ・ギターのリフ、ドライヴしまくるベースとハードなドラミングのリズム・セクションにコモノの刹那的なボーカルが乗る3分弱の短い曲ではあるが、筆者が最もリピートして聴き込んだ曲であり、ファースト・インプレッションでベスト・トラックに挙げたい。

 繰り返しになるが、魅力的な曲ばかりが詰まった本作は、現在進行形の若手バンドの中でも個性が突出しているので聴くべきであると強く薦めておく。

Nagakumo『JUNE e.p.』ティザー映像

BASE 『JUNE.e.p』【特典付き】予約先:https://ttosdomestic.thebase.in/items/76882738 


(テキスト:ウチタカヒデ

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